本木大介建築設計事務所/Daisuke Motoki Architects

噺館(はなしごや)

山形県山辺町
2020

敷地は東側に山形市内と蔵王連峰を望む山形県山辺町のなだらかな丘陵地に位置する。古くは山辺城、神社、役場近傍の商店と利用形態を変えながら、中心、その近傍として人が集まる場所であったが、近年は役場の移転や過疎高齢化などによって、人通りが少なくなってきている。定年退職を期に町を元気にする何かを始めたいという施主の思いから計画はスタートし、落語などのイベントを企画運営してきた施主の経験を活かして、イベントやパーティーが行えるホールとイベント時の楽屋を兼ねた1組限定のゲストハウスをつくることになった。


ゲストが町から安らぎを受け取り、町がゲストから元気をもらう。異なる文化の間に新たな価値が生まれ地域の豊かさにつながっていく。そうした循環を生み出しこの土地に定着し豊かに生き続けることが計画の目的である。「この地で豊かに生き続ける」ことを支える建築を考えたとき、この地にある眺望、斜面、神社の参道、草木、土や風などの要素をデザインの拠り所としたこの地特有の個性と加速度的に変化を続ける時代に対応できる柔らかさを兼ね備えた建築が良いと考え、静的な活動のためのこの土地の土を仕上げにした「土の空間(ゲストハウス)」と、様々な使い方に対応する動的な「木の空間(ホール)」を組み合わせた構成を考えた。


「土の空間」(ゲストハウス)は、東側の眺望の良さを生かすよう南北に長い形状とし、東側に開口部を設けた。開口部の前方には床から730mm持ち上げた奥行き4.2mのデッキテラスを配し、視線を制御し静かに蔵王連峰の山並みを望めるようにした。仕上げは現場の土を用いた掻き落とし仕上げとし、土地から生えてきたような静かで重厚感のある空間を目指した。卓越風を取り入れるための小さめ窓を設け、ソファやベッドの置かれる西側の南北妻側にはそよ風が流れる。


「木の空間」は50人規模のパーティーから5,6人規模の料理教室まで幅広い用途に使われる。北側と東側に大開口を設け、利用する用途に応じて外部までホールが拡張できるようにした。敷地の微小な高低差や残置された神社の参道を利活用した配置平面計画とし、大地に寄り添い、周辺環境に開かれた開放的な空間とした。


「土の空間」と「木の空間」は近くのまちなみと遠くの自然を感じながら高さを変えて行き止まりのなくつながる動線計画とした。多様なアクティビティを包む周辺環境を高さや角度を変えて感じられるようにし、場所を巡る空間体験が建築の個性となるようにした。


完成後、地域住民が作った芋煮やバーベキュー、地酒、夜景、風とともに落語家を取り囲んでオープニングパーティーが行われた。蔵王連峰と町に見守られながら、ホストとゲスト、今と昔、変化するものとしないもの、人と自然をおおらかに包み込む場所となり、時代を超えて笑顔とともにこの地に根付き育まれることを願っている。

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1階平面図  
1:ポーチ 2.ホール 3.屋外ステージ 4.ステージ 5.WC 
6.キッチン 7.パントリー 8.物置き 9.倉庫

2階平面図  
10:客室(楽屋) 11.浴室 12.バステラス 13.ウッドデッキ

断面図  
2:ホール 6.キッチン 8.物置き 10.客室(楽屋)

           
           

(仮)House project

山形県
2021

           

1階  
1:玄関 3.ダイニングキッチン 5.主寝室 6.書斎 7.洗面脱衣室 8.浴室 9.WC 10.物入 
11.テラス 12.サンルーム A:ポーチ B:南庭 C:北庭 D:作業スペース E:畑 F:駐車場 G:堆雪スペース 

断面図  
2:リビング 3.ダイニングキッチン 4.主寝室 5.フリースペース(寝室) 
11.テラス 12.サンルーム B.南庭 F.駐車場


・雪
・太陽
・風
・雨水利用
・半外部空間(ワークスペース)
・庭
・畑
・視線の制御
・プライバシーを確保し、垣根越しのご近所付き合い
・街並みとの調和
・個人としての家族とまとまりとしての家族。スマホとテレビ。
・住み変わり